石室の中、墓の主が眠るその部屋のなんとゴージャスなこと!
何色も使い、様々な文様を、神秘的で美しくてポップに、空間全てを埋め尽くして描いています。誰もが、中に入るとウヮーっと声を絞り出し口を開けて天井を仰ぎ見ます。それほど強烈なインパクト。
ところで、石室と言ってもここは、古墳に隣接している王塚装飾古墳館の、実物大の石室レプリカです。こうやって入って体感できるのは本当に楽しい。壁を眺めてああでもないこうでもないと同行の方たちと想像をたたかわせていると、時間を忘れます。
石屋形や入口の小窓や灯明台など、複雑で特徴ある構造は見どころ満載です。
「赤・黄・緑・黒・白」と5色も用いていることも、壁一面にびっしりと文様が描かれていることも、お目にかかれることではありません。
満天の星や幾何学文様。
盾や靱(ゆぎ)などの武具。
馬と人。
中でも絶対に注目していただきたいのは、
双脚輪状文(そうきゃくりんじょうもん)です!
2本の足が生えたような双脚輪状文は肥後独特の文様で、(1)熊本、(2)八女地方(熊本県と福岡県の県境)、(3)この王塚古墳、の3ヶ所でしか見つかっていません。ここだけがぽーんと離れています。当時の勢力図や地形をいろいろ考えあわせると、豪族たちの勢力争いの中で、交流や婚姻により生き残りを図っていた姿が見えてきそうです。
古代の人々が人生を生き、闊歩した姿が、鮮やかに迫ってくるような時間です。
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装飾古墳王国・九州の、
王塚(おうづか)古墳。(福岡県嘉穂郡桂川町)
装飾壁画のある古墳としては日本に3つだけの国特別史跡(=遺跡の国宝)の中の1つ。あと2つは、飛鳥歴史公園内のあの誰もが知る女子群像で「高松塚古墳」と四神図の「キトラ古墳」。
*館内に原寸レプリカ復元。石室写真はすべて館内、筆者
*本物の古墳石室は春と秋の公開日にガラス越しに見学可能
*館の承諾のうえ掲載しております。転載ご遠慮ください
【写真コーナー】—————-
館内には石室の原寸レプリカ。前室から主が眠る玄室を望む
玄室入り口には馬と人。蕨手文。双脚輪状文に注目!
玄室内には石棚と石屋形。まさに肥後の特徴。高い天井を埋め尽くすのは満天の星だろうか
石屋形には主と、おそらく夫人。室内には枕が4つ、少なくとも4人が葬られている
棺台の脇を固める、双脚輪状文。何を意味するのだろう
玄室右手には靫(ゆぎ)がずらり(背中に背負う矢筒)
玄室左手には楯がずらり。主は武人として活躍したのでしょう
靫の上には弓もセットで
奥から入り口を望む。小窓は肥後の特徴。表(前室)からは見えない裏側にまでもびっしりと文様。しかし・・・
室内で1か所だけ何も描いていない所が。職人の描き忘れか、深い意味があるのか。もしや魂の出入り口? 謎です。耳なし芳一を思い出す
王塚装飾古墳館 外観
隣の丘の古墳に登ります
春と秋の2回、特別公開がある予定。詳しくは自治体の情報を。公開日には全国からファンが訪れ行列ができます
九州国立博物館公式サイトより。装飾古墳の特設ページはとても見ごたえがあります。
http://s-kofun.kyuhaku.jp/