地図は面白い。境界線や抜け道や起伏に気づき、それでなのか!と、歴史や文化がストンと腑に落ちることも多い。
それにしても、北極点を中心とした360°地図はあまり目にすることがない。ここでは地球一周を味わうことができる。ただし北半球の寒帯・亜寒帯に限った世界一周。
これが本当に面白い。そしてリスペクトを覚える気持ちで館を出ることができる。
ここは、日本唯一であり世界でも希少な、
「北方民族を俯瞰する」博物館。
内陸ではトナカイ、
海ではアザラシと付き合いながら、
同じ目的を達していたりと、興味深い。
北方民族同士の交流交易も見える。今でいう連携、連帯?
この館のテーマは、「民俗」ではなく「民族」です。
展示は、「衣」「食」「住居」「精神世界」「生業」とテーマごとになっていて、各民族の共通性や違いが見えてくる。地域にあった知恵を絞っているのが唸るほど勉強になる。
人類が400~500万年前にアフリカで生まれ、ホモサピエンスが十数万年前から世界へ広がり始め、それが北方に住み着くようになるにはかなりの時間を要していて数万年前。
アメリカ大陸に渡ってからの南下はたやすく、数千年で南米の南端へ到達したそう。
北方にすむには、400~500万年。
南米南端までの南下には、数千年。
そのことが、北方の地で暮らすことがいかに厳しく難しく、知恵と工夫が必要だったかを物語っている。自然への畏怖も敬う心も、生きるために大切だったに違いない。
アメリカ・カナダ・ロシア・北欧諸国をカバーする収集品が、
なんと8000点、
という豊富さです。
世界でも稀有な「北方民族に特化した博物館」は素晴らしかった。
列島の北の門戸・北海道の、それも道東の網走にあり、行きづらいと思うかもしれないけれど、飛行機で道東まで意外と便利に行けてしまう。知らないままでは本当にもったいないと思った。
日本が中心の地図を見慣れている私たちだが、「中心」を変えたら別の世界になる。
他に教わる事でこそ、自分の足元もより見えてくる。
■北海道立北方民族博物館(網走市) 公式サイトは こちらです
*写真は館内の掲示物、展示物等
*館に無断での掲載等はご遠慮ください。
【写真コーナー】——————–
「北方民族博物館はユーラシア、北アメリカ、グリーンランドの先史時代から現代まで、北方文化を対象とする博物館です。」
いざ、館内へ。
「ナーナイ花嫁衣裳」
(沿海州)
背中には氏族の繁栄を願う「氏族の木」と呼ばれる文様がついており、ケープを身に着ける
「カリブー・イヌイト女性用衣装」
(カナダ)
カリブー(北米の野生トナカイ)の皮を素材に内側に毛を向けて作られている。ヨーロッパ人との交易で得たビーズで飾られ、十字架や花柄にも影響がうかがえる。背負った子供と共用する大きなフードは、防寒着としての機能性も高い。
「グリーンランド・イヌイト女性用衣装」
(グリーンランド)
ビーズのケープは晴れ着の特徴、白いブーツは未婚の女性であることを示す。
「北西海岸インディアン儀礼用衣装」
(北アメリカ西海岸)
首長が身に着けるチルカットブランケットはトリンギットのもので、帽子はハイダのもの。
「北海道アイヌ男性用衣装」
礼冠と飾り刀を身に着けるのが男性の正装。刀掛帯はオヒョウの木の繊維を編んで作る。
「サミ男性用衣装」
(ノルウェー)
教会行事やトナカイの屠殺などの重要な年中行事に着る晴れ着。男性用帽子は地方によって異なる。
雪と氷に閉ざされる暮らしで、衣類の防寒・防水はとても大事。海獣の内臓を使って機能性に富んだ衣類を作るのは、北方の特徴。
海獣の腸でつくった衣装
「イヌイトのパーカ」
(カナダ)
アザラシの腸の皮。海獣狩猟や舟旅で着用。継ぎ目は厳重に縫い合わせて水を防ぐ。
魚の皮も防水に優れ、揉まれた皮がしなやかで靴やカバンにも。
「魚皮製の上着・ズボン・くつ」
(ナーナイ/ロシア、ホジェ/中国)
上着はサケ。他にコイ・ナマズ・チョウザメなどの大型魚類が素材として使われた
説明を追加
素材の魚皮。
左がシロザケ、右がカラフトマス。
衣服製作の道具も充実。皮鞣し具、織機の部品や杼(ひ)など。皮をなめすときは余分な肉や脂肪を削ぐためにスクレイパーを使う。
精神世界のコーナー。動植物については、深い知識とともに、いかに滅ぼさず安定して長く手に入れるかに注意を払い生きていた。そのため人智を超えた「超自然的な世界」と友好関係を築く必要があった。
肉体は動物界を支配する「主(ぬし)」からのおくりもの、霊魂は「主(ぬし)」のもとへかえすべきもの、だったのだ。
クマを崇高とみなし、クマの霊送りの儀式をもつ民族は多い
クマ送りの儀式や形式は、地域や民族でそれぞれにある
クマ送り用の儀礼具(こし)
(ハンディ族/ロシア)
移動手段はそり。地域により、トナカイ橇や、犬橇。
各地のそり、舟。
狩猟、漁撈、採集、トナカイ飼育など、生業には地域性が濃い
狩りのための道具。考えつくされ機能性に優れていて驚く
労働の間に子供を何かに縛り付けておくのは、いつでも、いずこでも同じ。各地のゆりかご。子供を入れるバッグもある!
「オホーツク文化」。北海道からサハリン、千島列島まで。代表的なモヨロ貝塚を見てきたばかり。
出土する土製品・牙製品には海獣も多い
骨鍬(モヨロ貝塚)
鉄製品(モヨロ貝塚)
蕨手刀、鉾、鉄斧。
軟玉製環玉!!
住居跡から出たクマの頭骨の祭壇。
ミニチュアの土製品にも様々なクマが。
常設展図録。800円とはありがたすぎる(送料は別)
このシリーズはニッセイ財団の出版助成で、多くの館で見ます。手元に置きたいシリーズです。